「誕生日おめでとう」
心地よい低音が響き、自然、口を緩める。
ソファに座るキラに軽く覆いかぶさり
首元を絞める白い制服をくつろげていくアスランの指先を伏し目で見やりながら
キラは特に何の抵抗もしなかった。
それは、キラも望んでいるところだから。
雰囲気に流されるままで、言い忘れたお礼を言葉にする前に
「ということで」と、アスランに仕切りなおされる。
なにがどうどういうことなのかわからないキラは、首を傾げた。
「…ということ?」
キラの視線もなんのその。
目前には満面の笑みのアスランがいた。
こういったときのアスランは危険だと
今までの長年の付き合いで十分なくらいに知っていたキラは
不審に眉をしかめ、顔を引く。
「年上になったキラ様にご奉仕でもしようかと思って。」
「…は、ぁ。」
アスランがご奉仕という言葉を発するのが、およそ似つかわしくない。
状況についていけないままのキラをさて置き
アスランはどこから出したのか、手には一人分のケーキを持っている。
頂点に赤い苺が輝き、白で覆われたごく一般的なショートケーキだ。
「はい、キラ」
ぼぅっとケーキに目を奪われ、本当にどこから取り出したのかと
そんなことに思考を埋め尽くされていると、
目前にはずずいと赤い物体が差し出されている。
すぐにそれがなにかわかったが
それはあまりのドアップにその姿がぼやけるほどで
けげんに眉の皺を深めていた。
「きーら。はい」
なんの反応も見せないキラに痺れをきかせたアスランが
フォークに刺さった苺をより前へと押し出す。
その顔は楽しそうに笑っている。
この頃業務に追われていて
こんな顔のアスランをしばらく見ていなかった気がする。
ほだされたキラは、ぱくりと苺を口にくわえた。
満足そうにフォークは引かれる。
ただキラはそのまま口に含まなかったので
キラの唇にはいまだにはまれた苺が。
ふいと視線を向ける。
片膝だけを乗り上げて覆いかぶさっている緑の瞳に目を合わせた。
キラの視線のいわんとすることがわかったのか
アスランは口をにっと緩ませ
そっと近づかれた顔に苺の半分が持っていかれる。
軽く触れた唇に、まだ租借も満足じゃないまま舌を這わせた。
意図に気づいたアスランに口内へ迎えられる。
触れ合った舌先に電流が走ったように身体が震えた。
苺の甘酸っぱさが脳内を埋めつくす。
キラが衝動のままにアスランの髪に手を差し込むと
息もつかぬほど舌を強く吸われた。
キラも呼吸もおしいほど無我夢中で絡めた。
「…は…、ッ……」
とうとう限界がきてしまい、キラは名残惜しく唇を離す。
いつの間にか、アスランはキラを抱き込むように背もたれに手をついていた。
脳内がいまだに痺れている。
何度も言うようだが、このところは業務が忙しかった。
アスランと二人きりになれたのも、数えるほどしか思い出せない。
…たまってる、のかもしれない。
アスランの首に腕を回し、久しぶりのアスランの匂いに
埋め尽くされながら、そんなことを思った。
たまらない。
「いらないよ」
アスランの肩に顔を押し付けていたので
もごもごと篭った声になってしまった。
「なにが?」
アスランの耳には届いたようで、優しく返される。
耳を擽られるように指先を這わされて、背筋が震える。
「口移し、とか」
「今、すっごい食いついてきたのキラだけどな」
「苺じゃない」
「そうなの?」
「…そうだよ」
わかっているくせに、アスランはあっけらかんと首を傾げた。
たまにその態度に腹が立つが、今はそんなこともどうでもよかった。
「っ…ん…」
耳を擽っていた指先は、たどるように項に向かう。
漏れる息を抑えられない。
もう、
「もう、っ」
「……ん?」
「いいから…」
「ご奉仕は?」
「いらない」
切羽詰っているキラとは対象的に
アスランはいつも以上にゆったりと対応する。
首に回した腕で宵闇の髪を人房つかんだ。
「そんなんじゃなくて…」
「なにがご所望…?」
耳に届いた甘く掠れた囁きに、耐え切れず押し付けていた肩をかむ。
もうわかってるくせに、どうしても言葉で言わないと
この責め苦からは開放されないらしい。
アスランはこういうときは本当に意地が悪い…。
ぴちゃりと水音が近く聞こえた。
耳の中を舐められている。
あがる声を抑えて背を丸めた。
「…キィラ…」
もったいぶったように名前を呼ばれて、息が漏れた。
無意識に身体を離す。
見上げた瞳は先ほどよりも熱く潤んでいて
羞恥も何もかもが吹っ飛んだ。
「アスランがっ…、奉仕なんかより…そんな邪魔なのいらないから」
ほしいものはほしい。
だがこれ以上言葉が続かなかった。
やはり恥ずかしさはこみ上げてきて俯く。
自分の胸はまだ特になにもしてないくても、もう荒く上下していて
口は半開きに開き、吐く息で閉じられない。
浅ましい自分の身体に、脳の片隅で苦笑を漏らしながら
ゆっくりと顔を上げた。
「アスラン…」
感情のままに呟くと、ひとつ息を漏らしたアスランが距離を詰めた。
遠く、かしゃんと音が響いた。
たぶん先ほどアスランが持っていたケーキを床に落としたのだろう。
今はどうでもよかった。
ただ、熱いキスに身を委ねた。
キラたんだって欲情するのよーというブツ。
久しぶりすぎて、まったく書けないあすきら。
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